最高裁判所第三小法廷 平成7年(オ)2025号 判決 1997年11月11日
上告人
伊藤共栄
右訴訟代理人弁護士
木村靖
伊賀興一
被上告人
志萱喜代次
右訴訟代表人弁護士
中島俊則
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人木村靖、同伊賀興一の上告理由一一について
一 賭博の勝ち負けによって生じた債権が譲渡された場合においては、右債権の債務者が異議をとどめずに右債権譲渡を承諾したときであっても、債務者に信義則に反する行為があるなどの特段の事情のない限り、債務者は、右債権の譲受人に対して右債権の発生に係る契約の公序良俗違反による無効を主張してその履行を拒むことができるというべきである。
けだし、賭博行為は公の秩序及び善良の風俗に反すること甚だしく、賭博債権が直接的にせよ間接的にせよ満足を受けることを禁止すべきことは法の強い要請であって、この要請は、債務者の異議なき承諾による抗弁喪失の制度の基礎にある債権譲受人の利益保護の要請を上回るものと解されるからである。
二 本件についてこれをみるのに、原審の適法に確定した事実関係によれば、山田重美は、平成五年二月一五日、被上告人を債務者とし賭博の負け金七〇〇〇万円の支払を目的とする債権を上告人に譲渡し、被上告人は、同日、異議をとどめずに右譲渡を承諾したというのであるから、前記特段の事情のあることについての主張、立証もない本件においては、被上告人は、上告人に対して賭博行為の公序良俗違反を主張して右債権の履行を拒むことができるというべきである。
三 そうすると、上告人の被上告人に対する右七〇〇〇万円の支払請求を棄却すべきものとした原判決の結論は正当であって、論旨は採用することができない。
その余の上告理由について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は採用することができない。
よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官尾崎行信 裁判官園部逸夫 裁判官千種秀夫 裁判官山口繁 裁判官元原利文)